こんにちは!デジタルピアノの魅力に取り憑かれ、日々その奥深さを探求している「ピア憎」です。
カワイが放つ人気のポータブルデジタルピアノ「ES920」、あなたの気になっているリストにも入っているのではないでしょうか。アコースティックピアノに迫る本格的なタッチと、コンサートホールで聴くような美しい音色。そして、それだけの性能を詰め込みながら、本体重量わずか17kgという驚異的な軽さ。自宅での練習はもちろん、時にはスタジオやライブハウスへ、最高の「マイピアノ」を持っていけるなんて、想像するだけで音楽ライフが豊かになる気がしますよね。
しかし、その一方で、いざ高価な楽器の購入を真剣に検討し始めると、次から次へと疑問や不安が頭をもたげてくるものです。実際に長期間使っているユーザーからのリアルな評価や口コミはどうなのか?永遠のライバルとも言えるYAMAHAやRolandの同価格帯モデルと比較して、一体何が優れているのか?ネットで囁かれている共振やカタカタ音といった不具合の噂は、どの程度深刻な問題なのか…。また、少しでもコストを抑えたいと中古品に目を向けたとき、適切な価格相場や購入時に絶対に見るべき注意点はどこなのか、後継機の登場で価値が下がらないかなど、考えるべきことは山積みです。決して安い買い物ではないからこそ、絶対に後悔したくない、その気持ちは私も痛いほど分かります。
ご安心ください。この記事では、そんなあなたの「本当に知りたいこと」一つひとつに、徹底的に寄り添っていきます。カワイ ES920のカタログスペックだけでは見えてこない深い性能や特徴を、私の視点でじっくりと掘り下げるのはもちろん、購入前に必ずクリアにしておきたい懸念点まで、包み隠さず分かりやすく解説します。この記事を最後まで読み終える頃には、ES920があなたの音楽ライフにとって、本当に「運命の一台」となり得るのか、確信を持って判断できるようになっているはずですよ。
- ES920が持つグランドピアノに迫るリアルな音とタッチ感の秘密
- YAMAHA「P-525」やRoland「FP-90X」との決定的な違いと選び方
- 購入前に知っておくべき不具合の噂と、賢い中古品の探し方
- 最終的にあなたにES920が最適かどうかを見極めるための判断材料
カワイ ES920の核心性能を徹底レビュー
それでは早速、カワイ ES920が多くのピアニストから支持される理由を探っていきましょう。このピアノの魂とも言える「音」「タッチ」そして「利便性」といった核心性能に焦点を当て、その実力を解き明かしていきます。ただのスペック紹介ではなく、実際に演奏した時にどう感じるか、という視点を大切に解説しますね。
演奏者のリアルな評価と口コミ
新しい楽器を手に入れるとき、何よりも信頼できる情報源は、実際にその楽器を日々弾いている先輩ユーザーたちの「生の声」ですよね。私もES920について、海外のフォーラム(Redditなど)から国内のレビューサイトまで、かなり時間をかけてリサーチしてみました。そこから見えてきたのは、多くのユーザーが満足している一方で、いくつかの点で好みが分かれるという、非常に興味深い実態でした。
圧倒的に多い「肯定的」な評価
まず、最も多く目にしたのは、そのタッチ感に対する絶賛の声です。「これが本当にプラスチック鍵盤なのか?」と驚く声が非常に多く、「しっとりと指に吸い付くような感覚で、長時間の練習でも疲れにくい」「アコースティックピアノからの移行でも違和感が少ない」といった評価が目立ちました。これは、後ほど詳しく解説する高性能な「RHIII鍵盤」の恩恵が非常に大きいと言えるでしょう。特に、ピアニッシモでのコントロールのしやすさを評価する声は、上級者と思われるユーザーから多く寄せられていました。
音に関しても、「内蔵スピーカーのクオリティが予想以上に高い」という意見が多かったです。特にカワイのフラッグシップピアノ「SK-EX」の音色は、その深みと温かみのある響きで多くのユーザーを魅了しているようです。「ヘッドホンをしなくても、部屋全体が豊かなピアノの響きで満たされる」という声は、自宅練習がメインの方にとって非常に心強い評価ですよね。
一部で見られる「好みが分かれる」意見
一方で、どんなに優れた製品でも万人に受け入れられるわけではありません。ES920に関しても、いくつかの点で好みが分かれるポイントがあるようです。
その代表格が、鍵盤の戻りの速さ、いわゆる「Bouncy(バウンシー)」な挙動です。これは、YAMAHAのどっしりとした重い鍵盤や、アコースティックピアノのタッチに慣れ親しんだ一部のユーザーから指摘されています。鍵盤を押し込んだ後の跳ね返りが強く感じられるため、「軽快」と捉えるか、「落ち着きがない」と捉えるかで評価が二分するようです。ジャズやポップスのようなリズミカルな演奏にはこの特性がプラスに働くことが多いですが、ショパンのノクターンのような、じっくりと鍵盤に重みを乗せていくような曲を弾きたい奏者にとっては、少し慣れが必要になるかもしれません。
3つのグランドピアノの音を比較
ES920のサウンドの心臓部を担っているのが、カワイの最先端技術が結集した「Harmonic Imaging XL (HI-XL)」音源です。この音源の最大の特徴は、単にピアノの音を録音しただけでなく、その響きが生まれるプロセス全体を再現しようという思想にあります。そして、その核となるのが、キャラクターの異なる3種類のコンサートグランドピアノの音色です。これらを使い分けることで、演奏の表現力は飛躍的に向上します。
Shigeru Kawai EX (SK-EX) – 魂を揺さぶる至高の響き
これは、カワイが世界に誇るフラッグシップ・フルコンサートグランドピアノの音色です。ショパン国際ピアノコンクールをはじめとする、世界の檜舞台で数々のピアニストに選ばれてきたピアノ(出典:株式会社河合楽器製作所 公式サイト)として知られています。そのサウンドは、一言で言うと「深遠かつ温かい」。弱く弾いたときの、まるでビロードのような滑らかで色彩豊かなトーンから、フォルティッシモで弾いたときの、ホール全体を揺るがすような圧倒的なパワーと豊かな倍音まで、ダイナミックレンジが非常に広いです。クラシック、特にロマン派(ショパン、リストなど)や印象派(ドビュッシー、ラヴェルなど)の楽曲が持つ繊細なニュアンスを表現したいとき、このSK-EXの音色は最高のパートナーとなってくれるでしょう。
Kawai EX (EX) – 突き抜けるクリアなサウンド
SK-EXの前身にあたる、カワイの歴史を築いてきたフルコンサートグランドピアノです。SK-EXと比較すると、より明るく(ブライトで)、輪郭がくっきりとしたサウンドキャラクターを持っています。音の立ち上がりが非常にシャープなため、ポップスやロックのバンドアンサンブルの中で他の楽器に埋もれることなく、ピアノの存在感をしっかりと主張したい場合に絶大な効果を発揮します。また、軽快なジャズのフレーズを奏でる際にも、そのキレの良さが際立ちます。
Shigeru Kawai SK-5 – 親密で優しいサロンの響き
フルコンサートグランドよりも一回り小さい、中型のグランドピアノの音色です。コンサートホールで聴くような壮大な響きとは異なり、まるでプライベートなサロンや小ホールで聴いているかのような、親密でリッチな響きが魅力です。歌の伴奏やヴァイオリンなどとのデュオといった、ピアノが前に出過ぎず、他のパートと美しく調和することが求められる室内楽のシーンで非常に重宝します。優しく語りかけるようなバラードにも最適ですね。
RHIII鍵盤のタッチとリアルな打鍵感
デジタルピアノを選ぶ上で、音源と並んで絶対に妥協できないのが鍵盤のタッチ感ですよね。ES920に搭載されている「レスポンシブ・ハンマー・アクションIII(RHIII)」は、数あるプラスチック製鍵盤の中でも、そのリアルな弾き心地で頭一つ抜けた存在と言えるでしょう。その秘密は、グランドピアノの複雑なアクション機構を、カワイ独自の技術で巧みに再現している点にあります。
ピアニッシモを支配する「カウンターウェイト」
多くのデジタルピアノ、特にポータブル機では、コストや軽量化のために鍵盤の構造が簡略化されがちです。その結果、弱く弾こうとしたときに不自然な抵抗を感じ、繊細なコントロールが難しいことがあります。しかし、RHIII鍵盤は、全ての鍵盤の手前側内部に「カウンターウェイト(おもり)」を搭載しています。これはシーソーの原理で、鍵盤を押し下げる最初の瞬間をアシストしてくれる役割を果たします。このおかげで、指先のわずかな重みだけで鍵盤がスッと沈み込み、ピアニッシモのような極めてデリケートな表現が驚くほど容易になります。これは、例えばドビュッシーの「月の光」の冒頭のような、消え入りそうな音を表現したいときに決定的な差となって現れます。
高速連打を逃さない「3センサー検出システム」
一般的なデジタルピアノが2つのセンサーで鍵盤の動きを検知するのに対し、RHIII鍵盤は3つ目のセンサーを追加しています。これがどういう効果をもたらすかというと、鍵盤が完全に戻りきる前の、まだ途中までしか上がっていない状態からでも次の打鍵を正確に検知できるようになるんです。これにより、リストの「ラ・カンパネラ」のような高速なトリルや同音連打を含む難曲でも、音が抜け落ちることなく、演奏者の意図したタイミングで正確に発音されます。まさに「指に鍵盤がついてくる」という感覚で、テクニカルなフレーズを弾く際のストレスが大幅に軽減されます。
グランドピアノ特有のクリック感を再現「レットオフ・フィール」
グランドピアノの鍵盤を非常にゆっくりと、神経を集中させて押し下げていくと、ある一点で「カックン」という、ごくわずかなクリック感のような手応えを感じます。これが「レットオフ」と呼ばれる現象で、内部のハンマーを弦から解放する(離す)機構が働く瞬間の感触です。熟練のピアニストは、このレットオフの感触を頼りに、発音直前のデリケートなコントロールを行っています。ES920のRHIII鍵盤は、このレットオフの感覚を機構的に再現しています。これにより、特に弱音でのコントロール性が向上し、どこまで鍵盤を押し込めば音が出るのか、その「発音ポイント」を指先で直感的に感じ取ることができるのです。
驚きの軽さ!17kgの重さがもたらす利点
ES920を語る上で、絶対に外せないのがその画期的な「軽さ」です。高性能な鍵盤と高品位な音源を搭載したモデルでありながら、本体重量はわずか17.0kg。これは、このクラスのポータブルピアノとしては驚異的な数値です。
前モデルのES8は、その堅牢な金属製ボディで高い評価を得ていましたが、重量は約22.5kgもありました。この5.5kgの差が、ユーザーの音楽ライフにどれほど大きな変化をもたらすか、具体的に想像してみましょう。
音楽を「持ち運ぶ」という新しいライフスタイル
22.5kgという重さは、屈強な男性でも一人で階段を運んだり、長距離を移動させたりするのはかなり骨が折れます。車への積み下ろしも一苦労です。しかし、17.0kgならどうでしょう?これは一般的なシティサイクル(ママチャリ)や、お米の10kg袋と5kg袋を一緒に持つくらいの重さです。もちろん軽くはありませんが、成人男性なら問題なく、女性でも少し頑張れば一人で持ち上げて運ぶことが現実的な範囲内になります。
これにより、音楽の楽しみ方が大きく広がります。
- 自宅内での自由な移動:「普段は書斎に置いているけど、週末は家族が集まるリビングで弾きたい」「夜はヘッドホンで練習したいから寝室に移動させたい」といった、生活シーンに合わせた配置換えが気軽に行えます。
- 友人宅でのセッション:「今度の週末、うちでセッションしない?」という誘いにも、ためらうことなくES920を車に積んで駆けつけられます。
- スタジオ練習やライブ活動:リハーサルスタジオやライブハウスに常設されているピアノのコンディションに左右されることなく、常に自分の慣れ親しんだタッチと音で最高のパフォーマンスを発揮できます。
「Anytime, Anywhere, Enjoy(いつでも、どこでも、楽しむ)」というES920のコンセプトは、この17.0kgという軽さによって、初めて真に実現されたと言っても過言ではないでしょう。
Bluetooth接続とアプリ連携の利便性
現代のデジタル楽器において、スマートフォンやタブレットとの連携機能はもはや必須と言えます。ES920もその例に漏れず、非常に強力で便利なBluetooth機能を搭載しており、練習から音楽鑑賞、さらには創作活動まで、ピアノの楽しみ方を大きく広げてくれます。
高音質コーデック「aptX」対応のBluetooth Audio
ES920は、スマートフォンなどのデバイスから音声をワイヤレスで飛ばし、本体の高品位なスピーカーで再生できる「Bluetooth Audio」機能を備えています。ここで特筆すべきは、それが高音質・低遅延コーデックである「aptX」に対応している点です。標準的なコーデック(SBC)に比べて、より多くの情報を伝送できるため、音質の劣化が少なく、クリアでリッチなサウンドを楽しめます。
また、低遅延という特性は、特に動画コンテンツとの相性で威力を発揮します。例えば、YouTubeで配信されているピアノのレッスン動画や、好きなアーティストのライブ映像に合わせて演奏する際に、映像と音のズレがほとんど気になりません。これは練習の効率と楽しさを格段に向上させてくれます。もちろん、単純にSpotifyやApple Musicなどの音楽を流すためのリスニング用ワイヤレススピーカーとしても、その性能はそこらのBluetoothスピーカーを凌駕するクオリティを持っています。
ケーブルレスで広がる可能性「Bluetooth MIDI」
もう一つの強力な機能が「Bluetooth MIDI」です。これは、演奏情報(どの鍵盤をどのくらいの強さで弾いたか、など)をワイヤレスで送受信する規格です。これにより、これまでUSBケーブルで接続する必要があったアプリとの連携が、完全にケーブルレスで実現します。
代表的な活用法は、カワイが提供する純正アプリ「PianoRemote」です。このアプリを使えば、手元のスマホやタブレットのタッチスクリーンで、音色の切り替え、レイヤー(音色重ね)やスプリット(鍵盤分割)の設定、メトロノーム、録音といった、ES920の多彩な機能をグラフィカルかつ直感的に操作できます。本体の小さなディスプレイとボタンでチマチマと設定するよりも、はるかに快適です。
さらに、Synthesiaのようなゲーム感覚で練習できるアプリや、AppleのGarageBandのような作曲アプリ(DAW)ともワイヤレスで連携可能。譜面台に置いたiPadにケーブルがごちゃごちゃと繋がることなく、スッキリした環境でスマートに音楽制作や練習に没頭できます。
カワイ ES920 購入前のチェックポイント
さて、ここまでES920の素晴らしい性能や魅力について詳しく見てきましたが、どんな製品にも光と影があるものです。実際にあなたの音楽ライフに迎え入れると決断する前に、ライバルとなる他のピアノとの違いや、知っておくべきデメリット、そして賢い買い方についてもしっかりと確認しておきましょう。ここからの情報が、あなたの「後悔しないピアノ選び」の最後の砦となります。
ライバル機種との比較 P-525とFP-90X
ES920が属する「15万円〜25万円クラスのポータブルデジタルピアノ」は、各メーカーが最も力を入れている激戦区です。その中でも、特に強力なライバルとなるのが、YAMAHAの「P-525」とRolandの「FP-90X」です。この3機種は、それぞれに異なる思想と魅力を持っており、どれが一番優れているというよりは、「誰に一番合っているか」が重要になります。それぞれの特徴を比較してみましょう。
対 YAMAHA P-525 (木製鍵盤の安心感 vs 軽快なタッチ)
YAMAHA P-525の最大の魅力は、なんといっても「木製鍵盤(GrandTouch-S)」を搭載している点です。物理的な木の質感と、どっしりとした安定感のあるタッチは、特にアコースティックピアノ経験者にとっては絶大な安心感があります。音色も、YAMAHAの代名詞であるコンサートグランド「CFX」の、華やかで輪郭のはっきりしたサウンドが特徴。しかし、その代償として重量は22.0kgと、ES920より5kgも重くなります。この差は、持ち運びを少しでも考えるなら無視できない大きな壁となるでしょう。
選ぶならどっち?
・P-525がおすすめな人:持ち運びはほとんど考えず、とにかくアコピに近い「木製鍵盤」のタッチを最優先したい人。YAMAHAのキラキラした音が好きな人。
・ES920がおすすめな人:タッチの質に妥協せず、かつ「持ち運べる」という可搬性を重視する人。カワイの深みのある音が好きな人。
対 Roland FP-90X (先進のモデリング音源 vs リアルなサンプリング音源)
Roland FP-90Xは、物理的な録音に基づかない「ピュアアコースティック・モデリング音源」を採用しています。これは、ピアノの発音原理をコンピュータでシミュレーションして音を生成する方式で、同時発音数が無制限になったり、強弱の変化が極めて滑らかだったりというメリットがあります。表現の自由度という点では、他の追随を許さない先進性を持っています。一方で、そのサウンドには計算合成特有の「整いすぎた響き」を感じる人もおり、生ピアノが持つ「有機的な揺らぎ」や「良い意味での雑味」を重視するなら、サンプリング音源のES920に軍配が上がります。そして、重量は23.6kgと、もはやポータブルとは呼び難い重さです。
選ぶならどっち?
・FP-90Xがおすすめな人:重量は度外視で、とにかく最新技術による滑らかな表現力を体験したい人。電子楽器ならではの音作りを楽しみたい人。
・ES920がおすすめな人:実在する最高峰のピアノが持つ「本物の響き」のリアルさを求める人。ライブなどで即座に音質を変えたい人(ハードウェアEQフェーダーが便利)。
身内のライバル:ES520との比較
カワイの下位モデル「ES520」との比較も重要です。ES520は重量14.5kgとさらに軽量で、価格も4〜5万円ほど安いのが魅力。しかし、その分、鍵盤アクションがカウンターウェイトやレットオフ機構が省略された「RHCII」になり、音源もHI-XLよりグレードが下の「PHI」となります。ピアノとしての基本性能である「タッチと音」にこだわるのであれば、この価格差を払ってでもES920を選ぶ価値は十分にある、と私は考えます。
噂される不具合、共振やカタカタ音
ES920を検討する上で、おそらく最も気になるのが、一部のユーザーから報告されている「共振」や「カタカタ音」といった不具合の噂ではないでしょうか。これらは製品の欠陥なのか、それとも個体差や使用環境によるものなのか。購入前にその実態と対策を正しく理解しておくことが重要です。
特定の音域で発生する「共振(Buzzing / Rattling)」
これは、特定の周波数の音、特に低音域の「ラ」や「シ♭」あたりを、ある程度以上の音量で弾いたときに、本体のどこかから「ブーン」とか「ビリビリ」といった不快な雑音が発生するという現象です。この主な原因は、ES920の設計思想そのものにあると考えられます。つまり、「軽量な樹脂製ボディ」に「サイズを超えたパワフルなスピーカー(20W×2)」を搭載したことによる、一種のトレードオフなのです。金属に比べて質量の小さい樹脂筐体は、スピーカーから発せられる強力な振動エネルギーを吸収しきれず、共振しやすくなる傾向があります。
ただし、これは全ての個体で必ず発生するわけではありません。組み立て時のネジの締め付けトルクのばらつきや、部品同士のわずかなクリアランスの差といった個体差、そして設置しているスタンドの種類や床の材質といった環境要因が複雑に絡み合って発生するようです。
もし共振が発生したら?
- EQ(イコライザー)で調整:ES920のパネル上には4バンドのEQフェーダーがあります。まず、共振を誘発している低音域(Low)のフェーダーを少し下げてみてください。多くの場合、これだけで症状が気にならないレベルまで改善します。
- 設置環境の見直し:使用しているスタンドがガタついていないか確認し、しっかりと固定します。床との接地面に市販の防振ゴムや厚手のマットを敷くのも有効です。
- メーカーサポートへの相談:色々試しても改善しない、あるいは明らかに初期不良だと思われる場合は、迷わず購入店やカワイのサポートセンターに相談しましょう。
打鍵時に聞こえる「カタカタ音」
こちらは、鍵盤を弾いたときに、ピアノの音とは別に「カタカタ」「カチカチ」といったメカニカルなノイズが聞こえるという報告です。これは経年劣化による内部の潤滑グリスの切れや、鍵盤の衝撃を吸収するフェルト部品の摩耗などが原因で発生することが多いです。また、ごく稀に初期不良として、部品の取り付けに不備があるケースも考えられます。
中古価格の相場と購入時の注意点
高性能なES920を少しでも安く手に入れたいと、中古市場に目を向けるのは賢明な選択肢の一つです。しかし、電子ピアノの中古品購入には、新品にはない特有のリスクや注意点が存在します。相場観とチェックポイントをしっかり押さえておきましょう。
中古相場とリセールバリュー
2025年現在のES920の中古市場での価格相場は、メルカリやヤフオクなどのフリマアプリ、あるいは楽器店の中古品コーナーで、状態の良い個体が概ね130,000円〜145,000円程度で取引されている印象です。新品の実勢価格が17万円台後半であることを考えると、3〜4万円ほど安く購入できる計算になります。
一方で、もし将来的にES920を手放すことになった場合(リセール)も考えてみましょう。楽器買取業者に査定を依頼すると、たとえ美品であっても買取価格は2〜3万円程度と、かなり低い金額を提示されることがほとんどです。これは、電子ピアノが「大きくて重く、送料が高く、精密機器で故障リスクがある」という、業者にとって在庫リスクの高い商材であるためです。したがって、手放す際は、手間はかかりますがフリマアプリなどを利用して個人間取引を行う方が、圧倒的に高いリターン(10万円以上で売れる可能性も)を期待できます。
中古品購入で失敗しないためのチェックリスト
価格の魅力に惹かれて安易に飛びつくのは禁物です。中古のES920を検討する際は、以下の点を必ず確認してください。
個人的な見解としては、新品との価格差が3〜4万円程度であれば、1年間のメーカー保証が付いてくる安心感や、誰も使っていないという精神的な満足感を考慮すると、新品を購入するメリットの方が大きいかなと感じます。もちろん、信頼できる出品者から状態の良い個体を安く見つけられれば、中古は非常に良い選択肢になりますね。
後継機の発売は?現状のモデル評価
デジタル製品を購入する際に誰もが抱く不安、それは「買った直後に新しいモデルが出たらどうしよう…」という、いわゆる「後継機問題」ですよね。特にES920は2020年発売と比較的新しいモデルではありますが、モデルサイクルの速い電子楽器業界では、気になるのも当然です。
結論から言うと、2025年現在、カワイからES920の直接的な後継機に関する具体的な公式発表や、信憑性の高い噂は出ていません。
その理由として考えられるのは、ES920が搭載している主要技術、つまり「HI-XL音源」と「RHIII鍵盤アクション」が、現在でもカワイのポータブル機としては最高峰のスペックであり、今なお非常に高い競争力を維持しているからでしょう。音源のサンプリングクオリティや、カウンターウェイトまで備えた鍵盤機構の完成度は、そう簡単に陳腐化するものではありません。
もちろん、将来的には音源のさらなる進化(例えば、より高度なモデリング技術とのハイブリッド化など)や、新しい鍵盤機構の登場、あるいはBluetoothの新しい規格への対応といったアップデートを盛り込んだ後継機が登場する可能性は十分にあります。しかし、それが1年後なのか3年後なのかは誰にも分かりません。
必須アクセサリー、スタンドやペダル
カワイ ES920は、そのままでも演奏を楽しむことができますが、その真価を100%引き出し、快適な演奏環境を構築するためには、いくつかの専用アクセサリーを揃えることを強く推奨します。これらは単なる「おまけ」ではなく、演奏体験を大きく左右する重要な要素です。
安定性と美観を両立する「専用スタンド HM-5」
持ち運びをしないのであれば、汎用のX型スタンドではなく、ぜひ純正の木製スタンド「HM-5」(実勢価格:約16,500円)を選んでください。最大のメリットは、その圧倒的な安定性です。ES920本体とネジでしっかりと固定するため、フォルティッシモで情熱的に演奏しても、スタンドが揺れたりぐらついたりすることは一切ありません。また、デザインも本体と一体感があるため、まるでスタイリッシュな家具のようにお部屋のインテリアに溶け込みます。演奏時の高さも最適化されているため、正しい姿勢で練習に集中できます。
表現の幅を広げる「3本ペダルユニット」
クラシックピアノ曲を演奏する上で、3本のペダル(ダンパー、ソステヌート、ソフト)は絶対に欠かせません。ES920には、用途に応じて2つの選択肢が用意されています。
- F-302:上記の専用スタンドHM-5に取り付けて使用する固定式の3本ペダルユニット(実勢価格:約13,000円)。自宅での使用がメインならこちらがおすすめです。ペダルがずれる心配がなく、アコースティックピアノと同じ感覚でペダリングができます。
- GFP-3:持ち運びも可能なポータブルタイプの3本ペダルユニット(実勢価格:約15,000円)。金属製でしっかりとした作りになっており、ライブやスタジオなど、外出先でも本格的なペダル操作をしたい場合に重宝します。
付属の1本ペダルでも基本的な演奏は可能ですが、ハーフペダル(ペダルの踏み込み具合で響きの伸びを調整する奏法)の表現力や、複雑なペダリングが求められる曲への対応力を考えると、3本ペダルへの投資は必須と言えるでしょう。
大切な楽器を守る「専用ソフトケース SC-1 / SC-2」
ES920の可搬性を活かして、外に持ち出すことを考えているなら、専用設計のソフトケースは必須アイテムです。汎用品のキーボードケースでは、88鍵用であっても奥行きや厚みが合わずに、中で楽器が動いてしまったり、最悪の場合入らなかったりすることがあります。純正のソフトケース(実勢価格:約2〜3万円)であれば、本体にぴったりフィットするように設計されており、厚手のクッションが移動中の衝撃から大切な楽器を確実に守ってくれます。ショルダーストラップや大きなポケットも付いており、運搬のしやすさも考慮されています。
結論、カワイ ES920はこんな人におすすめ
さて、長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました。カワイ ES920の性能、ライバルとの比較、そして購入前の注意点まで、様々な角度から深く掘り下げてきました。これまでの情報を総合して、最後に「カワイ ES920は、一体どんな人に最もおすすめできるピアノなのか」を、私の言葉で結論づけたいと思います。
もちろん、この記事で触れてきたように、鍵盤のタッチの好み(Bouncyな挙動)や、共振の問題といった、事前に理解しておくべき注意点も存在します。ですが、それらを差し引いても、カワイ ES920が持つ魅力と価値は非常に大きいと断言できます。
最終的な判断は、ぜひ一度、楽器店で実機に触れて、その音とタッチをあなた自身の五感で確かめてから下してください。この記事が、あなたのピアノ選びの旅における、信頼できる羅針盤となれたなら、これほどうれしいことはありません。


